テクノジーの進む方向性を考えるヒント
第五章 未来においてテクノロジーがどう作用するか
5–5. テクノロジーイノベーションをしっかり掴む3つの視点で、記述したテクノロジー自体を「人間」の機能に置き換えて捉えることを突き詰めていくと、人間の限界と向き合います。「スマホのチップ化 1–8 どうテクノロジーの流れを読むかで触れたような」など起こるはずがないという人は、大勢いるでしょうが、恐らくそういう方向でテクノロジーが進化していきます。
「起こるはずがないと思うこと」もまた危険なことで、判断を見誤ります。ソニー株式会社のノート PC バイオを極限まで薄くしようという話を聞いたことがあります。情報の出入力を指で行う限り、指先より遥に小さいキーボードは、そもそも押せないので、現実的ではありません。また、キーボードを打ち込む感触や音がないと、キーボードをそもそも打っているかわからないので、技術的限界ではなく、人間工学的に、ある程度の厚みが必要だという話を聞いたことがあります。
人間の指の大きさは変わらないから、キーボードは残るだろうと、考えた人は大勢いるかもしれません。ただ、スマホでは「キーボード」は UI へ組み込まれ、キーボードはなくなりました。大多数がキーボードを持ち歩くようなことは起こりにくい変化です。VKB ( Virtual Key Board )のような考え方で代替できますが、現在普及していません。やはり、打ち込む感触や音がないとダメなのでしょう。キーボードを押したときの感触、音や手触りは必要では?と考えるかもしれません。新素材があれば、バーチャル空間であたかも入力しているよう経験をすることはできるでしょうが、現実的ではないため、恐らくそこまで普及していないのでしょう。
私たちの PC や、スマホは、視覚なしでは不可能です。TacticleWorld 社は、マウスに点字の凹凸機能を付与し、いわゆるマウスで画面上をスクロールしている文字情報を読み込み、マウスの点字機能に反映することを行っています。Orcam 社も同じようなアプローチで、眼鏡で認識した文字情報を読み上げる機能を搭載しています。いずれもテクノロジーによる視覚機能の代替です。
生物学的な人間の大きさは、個体差はありますが、大きくは変わりません。パソコンのキーボードも人間の指の大きさが半分になることはありませんので、物理的にキーボードのボタンが 10 分の 1 となるようなことは、技術的に可能で、イノベーションは起こせますが、社会へ普及しません。キーボードの「価値」は「情報の出入力のコントロール」です。キーボードの限界領域では、違うテクノジーを使い情報の出入力を行う方向へ変容を遂げ始めています。例えば、出入力であれば、音声。パスワード認証は、顔認証へと同居しつつあります。原稿を書く際は、キーボードのままです。
今存在するツールが何のために存在しているか、その「機能価値」を捉えておくことで、テクノロジー自体が何を行えればいいかが分かるようになります。限界にぶつかったときに、人間に享受されやすい価値に変えるところで、テクノロジー、イノベーションの出番となります。