テクノジーがもたらす時代の流れを読む力をどうやって養うのか
第五章 未来においてテクノロジーがどう作用するか
自社に影響を与えるテクノロジー全般の変化を数値で表せられれば、時代の流れを読むこともある程度できるでしょう。簡単にはできないから、困ります。実際は、数値で表されないことが、大きく影響してきます。
さて、なぜ数値で表すか。工場の製造ラインであれば、同じ機能で既存のソフトウェアと AI を導入した場合、数値の差分。交換回数。何がどうなるか、どのぐらいの付加価値か。AI は、時間経過により付加価値が高まります。1点でみず、時間軸で見られるか。などいくつかの指標により、AI がいいか、既存のソフトウェアでも構わないか、判断がつきます。
ポイントは、数値で表されない指標への問題意識を持っておくことです。最新の技術以外からも起こる「サムシングニュー」のインパクトに感づけるかどうかです。
2012 年にソーシャルナビゲーションアプリグーグルの Waze 買収(買収額 11 億ドル)が起こりました。当時、私でも、「ただのカーナビの会社をグーグルが買収?」と違和感がありました。当然、私の周辺でも、「え、グーグルが、Waze を買収?しかもその金額?」という受け止められ方が大半でした。一言で片づければ、データの価値に誰よりも先に気付いていたグーグルですが、紐解いてみましょう。
まず、イスラエルは車社会ですが、多くのドライバーがカーナビを使っていません。正確には、搭載されているカーナビでは地図が古いため、カーナビが搭載されている車でも、スマホを使っています。当時のグーグルは、「データ自体の価値が、属性データから、行動データの方の価値が高くなる」という価値変容をしっかり捉えていました。当時、DX などという言葉は、勿論、ありません。記憶は曖昧ですが、「モビリティー」という言葉も、ほとんど浸透していません。2021 年時点で「行動データ」は重要とわかっている方は増えましたが、当時、「行動データ」と聞いても、恐らくデータの一種としてとらえ、どう重要かを捉えていた人は、皆無だったでしょう。「データは大事だよね」ぐらいの感覚だったのではないでしょうか。
データという価値を理解していた人が多くない中での買収は、今でこそ、納得感があります。当時情報交換する中でも、「高すぎる、意味がない、妥当だ」など賛否両論が渦巻いていた記憶はあります。ただ当事者のグーグルから見れば、ごく当たり前の選択だったかもしれないということが、時間の経過に伴ってわかってきます。カーナビを使わずに、スマホを使っていたことが、時代の変化の入り口でしょう。