スタートアップは、日本企業の価値連鎖は把握していない

第三章 イノベーションをどうビジネスにつなげていくのか

3 ステップ目では、「テクノロジー」や「イノベーション」そのもの以外のことが、障害になります。政治的要因、法律的要因、コスト的要因、自然環境など、一概に「テクノロジー」や「イノベーション」の文脈だけで考えられないようなこと、どうにもならない不確定な要素が増えます。革新的なテクノジーであればあるほど、与える影響度が大きいため、テクノロジー以外の影響を受けやすくなります。「テクノロジー」や「イノベーション」を実際にビジネス化していくときには、出現しつつある市場に新しいテクノロジーを結び付けること、変化するテクノロジー以外の要因も含めて、次々生まれる技術を横断的に捉えるなど、柔軟な対応が求められます。上記のような要因により、不確定要素が多い中では、価値連鎖の一連のプロセスを形成する際もコントロールが効かない部分も多いです。スタートアップのシーズ側からアプローチしてくれる場合、社内ニーズを把握している状態で、アクセスしてくれればいいのですが、実際そんなことはほとんどありません。彼らは「自分たちの技術が、日本企業が持っている課題を解決できるポテンシャルがあるか」を考える以前に、そもそも、日本企業のニーズを具に把握していません。

たとえば、あるエレクトロニクス企業の製造工程で、特定技術(純度の高い水を使う技術を必要とします。水関係のスタートアップでは、それの技術を日本企業が欲しているということはわかりえないでしょう。こういうことは、他の業界でも起こりえます。イスラエルに自動車工場はありません。100 %を輸入に頼っています。「自動車自体をどういうプロセスで製造されていくか」「そこにどういう技術が必要か」知る術がありません。ニーズを持つ側は、シーズへ 1 つ 1 つアクセスし、判断していくほかないということにもつながっています。ニーズ側が社外へ、社内ニーズを共有できない場合なども、自社のリソースで行う必要があります。イノベーションへのアクセス自体は、3 ステップあるうちの 1 つでしかありません。2 と 3 ステップ目に、比重を重くした方がいいですが、価値の源泉は、あくまで、1 に依存してきます。1 の付加価値が、2 、3 に大きく作用します。この案配が難しいところです。結局どうすれば、一番速く目的を達成できるかです。予算をみつつ、時間を見て決めてほしいです。そのためには、イノベーションへのアクセスを限られた予算で、できるだけ多くの引き出しを集められる体制にしておくためのベストな方法は独自性を持つことをお勧めします。第六章で解説します。

イノベーションのアクセスへ速度が重要とわかっていても、社内に全くその領域の知見のノウハウがない場合は、「厚み」がどうしても出せません。その場合は、外部を使った方が圧倒的に速いです。社内で、1 年以上かかることは、外部に頼めば、1 か月で終わります。10 倍以上速いです。社内で蓄積したいことと、達成したい成果を基に決めるのが良いでしょう。イノベーションへのアクセスは、安易に検索などに頼りがちで、企業データベースなどに頼りやすいです。データベース自体は、自社のニーズを把握して作られているわけではありませんので、結局は、1 社 1 社見ていくことが一番の近道です。

私の友人で広告会社に勤めていた T 氏の事例をお話しましょう。いざイスラエルのスタートアップとビジネスしようと思ったとき、彼は、自分の業界が公開されているカオスマップに掲載されているスタートアップ全てに電話をかけていくことが一番いい企業を探す「速い」方法と言っていました。結局アクセスして話を聞かないと何ら判別できないといっていました。イノベーションのアクセスは、スタートアップへの「面」でのアクセスを確保しておくことです。1 社 1 社「点」で見つつも、一定数見ること、領域毎みる「面」でみることこそ必要となってきます。たとえば、一定数の面を確保しようと、ファイナンシャルリターンだけに重きに置いているベンチャーキャピタルへの出資において、確保しようとしますが、どうしてもカバーしきれません。1 つの引き出しでしかありません。全く知らない人にとって価値がある幅広の情報に見えても、知っている人からすれば、断片的な情報ということがあります。

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