イノベーションだけではビジネス化できない理由
第三章 イノベーションをどうビジネスにつなげていくのか
3–6.「「ラボ」と「ビジネスユニット」の統合目線」では、Lab 機能とビジネス機能の連結について少し触れました。イノベーションプロセスは 3 つあり、最初の 1 のステップは、価値創造の比重が大きいです。2 、3 は、創造した価値のビジネス化の比重が大きくなります。個々それぞれで考えていては、3ステップは完結しないため、統合を行っていくことが、新規事業開発責任者や経営者の仕事です。事業開発活動につながらないイノベーション活動を行う研究所、Lab は、私は今の時代環境で存在価値は薄いでしょう。では、一番難所のイノベーション活動をどうビジネス化していくかについてです。
すごく画期的なイノベーションであっても、ビジネスにつながらない典型的な事例をお話します。『なぜ性能がいい電池を開発する「目線」だけではダメなのか。』結論を申し上げますと、電池業界としては、すごく画期的な電池、イノベーションを繰り返し付加価値が高いことであっても、電気自動車 EV が普及していくにあたっては、一要素に過ぎないということです。ある業界の画期的なイノベーションであっても、業界を変えた際にビジネス化できていないパターンです。
最たる理由は、3 ステップ目「3 .イノベーションを価値連鎖に巻き込んだ、ビジネス化」では、電池そのもののイノベーションの提供価値が相対的に低くなります。(実際は、どのぐらい低いかは各社の置かれている開発状況、提携先、ポジションなどに依存します。)
すごく画期的な電池を発明することは、価値あることです。ただ、画期的な電池が提供する価値は、最終形態を見据えたビジネスモデルの価値連鎖を考えたうえで捉えないと、そのイノベーション自体はビジネスにつながりません。3 ステップの 1 と 2 までは、自社が影響力を強く発揮でき、コントロールできます。ただ、3 ステップ目になると、「他社が関連するだけでなく、他業界を絡んでのビジネスモデル」まで考える必要があり、複雑さ、不確定要素が一気に増します。ステークホルダー(関連する事業者)の数が大きすぎる場合は、更に複雑になります。
電池業界、電動自動車業界で求められる価値を少し整理してみましょう。
◆電池業界:「リーズナブルな値段で最高性能な電池」
◆電動自動車業界:「電池」「充電インフラ普及度」「無線充電網」「充電時間の速さ」「法整備」「電動自動車社会普及度」etc
1 要素が提供するイノベーションがどれだけ革新的なものであっても、電気自動車網のように社会的な大きな課題は、1 要素だけで解決に繋がることはほとんどありません。電動自動車業界で求められる電池性能の価値は、業界全体のステークホルダーとの関りで決まります。業界が変わるとそのイノベーション(ここでは電池の性能)が必要とされる重要度が変わります。実際に課題が大きく複雑な業界であれば、どれだけ革新的なイノベーションであれ、技術同士の相関関係の中で重要度が低い場合は、既存の物で十分と、価値連鎖から弾き飛ばされる可能性すらあります。2–3.イノベーション、テクノロジーを全体感で見ることで触れた「イノベーション、テクノロジーを全体感で見る」ことは、自分たちが関わろうとする業界がどういう方向へ進むかどうかにより、そのイノベーション自体の価値が変わってしまうために、ここでも外せない視点となります。
例えば、電気自動車 EV が社会に普及していく場合、単体のイノベーション価値を高めるよりも、複数の技術を組み合わせた形で価値提供した方が、トータルでの価値提供コストが下がると判断されれば、どれだけ性能の高い電池であっても、業界の中での相対的価値が下がります。価値が下がると影響力自体が下がり、ビジネス化しても収益が見込めません。そんな高性能な電池はそもそも求められていないということになり、価値連鎖の中に入り込めない可能性さえ起りえます。